Shareを利用した著作権侵害による逮捕事例としては3例目に当たるのだろうが、この事件はやや背景が入り組んでいる。
2009年7月29日、Shareを利用し、日本IBMが著作権を持つ「JAVAコーディング・設計の落とし穴」などのドキュメントファイルを、無断でネットワーク上で送信可能状態に置いたとして、東京都の無職男性(50)が、警視庁生活経済課などに逮捕された。
実はこの事件、2009年1月に発生した日本IBMの業務委託先従業員によるWinny上での情報漏洩に端を発する。この情報漏洩(IBM ニュースリリース)により、「授業料徴収システム関連の一部の資料」とそれに関連した多数の個人情報が、Winnyネットワーク上で入手可能となってしまった。逮捕された男性は、Winnyを利用してこの漏洩情報を入手し、それをShareネットワーク上にリリースするという、いわゆる「輸入」を行っていた。
日本IBMとしては、自社のドキュメントファイルの著作権などよりも、漏洩した情報の流通を食い止めたい、対処したいところだったろうが、残念なことに直接的に対処するための術は存在してはいない。そのため、苦肉の策ではあるが、漏えい情報に含まれていた自社著作物の著作権侵害であるとして、男性を検挙するにいたったのだろう。
こうした強引とも思えるやり方について、専門家は以下のように解説している。
ITジャーナリストの佐々木俊尚さんは「情報を流出させた個人は著作権法違反か窃盗罪を適用するぐらいしか立件のすべがない。個人情報窃盗罪のような刑罰の新設が何度も検討はされているが、その対象や適用範囲をどうするのかについて法の専門家の間でも意見がまとまっていないのが現状だ」と話す。
国立情報学研究所客員教授の岡村久道弁護士(情報法)も「情報セキュリティーの法整備はまだまだ遅れている。著作権法違反での摘発が続くのもそのためだ」と指摘。一方で「(同法違反が)安易に摘発の道具のように使われることに危うさも感じる。事案の悪質性とのバランスをどう考えるかが問題だ」という。
情報流出、法律間に合わず 摘発「奥の手」頼り: asahi.com
別の行為を抑制、抑止するために著作権を行使したとしか考えられないわけで、こうした指摘は全うであろう。問題は、こうした問題に対処しえないことであり、そのために著作権が目的を超えて使われ続けるというのは実に不健全である。
男性は、「著作権侵害になるとは思わなかった」と容疑を否認しつつも、漏洩情報の輸入については、「IBMが何の対応もせず、このままでは(流出の事実を)隠蔽(いんぺい)されると思ったので、シェアで流した」と話していたという(MSN産経ニュース)。
2009年9月28日、男性は東京地検に略式起訴され、処分が確定した。処分は定かではないが、略式命令の場合、100万円以下の罰金または科料となる。
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