winmx_logo2003年9月、流出した某エステサロンの顧客データをWinMX上で共有していたユーザの情報を開示するようISPに命令が下された。

この裁判は、「エステティックは某エステサロン」というキャッチフレーズで人気のエステサロンが、同社ウェブサイトにて顧客データ3万数千人分を漏洩してしまったという事件を背景としている。管理の甘さであれ、クラックであれ、ユーザにアクセス可能な場所にデータをおいていること自体、どうしようもないのだが、この事件は単に同社ウェブサイトからの情報漏洩では済まなかった。

個人情報にアクセスできた時間はそれほど長くはなかったものの、そのデータの中身がかなりプライバシーに突っ込んだものだったためか、ウェブサイト上でのアクセスができなくなって以降も、ごく一部のユーザ間で流通を続けた。そうした流通の経路にWinMXでのやり取りがあった。

この情報漏洩によって被害を受けた2名は、WinMX上で公開した人物を特定するため、プロバイダー「パワードコム」に情報開示請求裁判を起こした。2003年9月12日、東京地裁の菅野博之裁判長は「プライバシー権の侵害は明らかだ」として情報の開示を命じた。

この裁判では、WinMXを用いた公開がプロバイダー責任制限法の開示対象となる「不特定の者への電気通信(特定電気通信)」となるか否かが争われた。確かにWinMXには多数のユーザが集まってはいるが、そのデータのやり取りは送り手・受け手が1対1の関係にあり、不特定者にはあたらないのではないか、という解釈できる余地があった。しかし、この判決では、

「誰でもデータを取得できる状態に置いたのだから、一連の情報の流れから特定電気通信に該当する」と明確に結論づける初の判断を示した。

エステ顧客データをネット公開した発信者の開示を命令(朝日新聞)

なお、この「エステティックは某エステサロン」ことTBCは2007年に訴えを起こした被害者たちに損害賠償を支払うこととなった。個人情報漏洩の賠償額としては過去最高額であったものの、流出した情報の補うにはあまりに少ない額だったといえるだろう。なお、原告側の主張が認められた一因に、WinMXによる流出等で回復不可能な損害が生じたということもあるようだ。